NYの「食」に輝きを与え続ける氷彫刻師

Photo by Okamoto Studio

ニューヨークという地でキラキラ輝く氷に命を吹き込む、氷彫刻師の岡本慎太郎氏。同氏が経営する「オカモトスタジオ」は、2003年に父武夫氏と共にニューヨークに創業。一目見た瞬間に人の心を魅了する慎太郎氏の氷彫刻は高く評価され、ニューヨークタイムス、ティファニー、ナイキ等の一流企業をクライアントに持つ。2014年にはアストリアに自社ビルを購入、成功を続ける「オカモトスタジオ」に迫った。

慎太郎氏の創り出す氷彫刻の虜になる飲食業界の顧客も多く、レストラン•モリモトやアブソルートウオッカもオカモトスタジオのクライアントだ。彼らは美しい氷彫刻を様々なイベントの顔として用い、NYの食に輝きを与え、人々の心を鷲掴みにしている。

岡本一家は福岡県の出身。同家は自営業を営んでおり、自分で起業したいという思いが強かった武夫氏にアメリカでレストラン経営の話があり、1983年、一家でアラスカに渡った。アラスカに移る前、東京でレストラン業の修行中に1年間修行中で氷彫刻に出会う。これが後の岡本親子の相棒となる氷との初めての出会いであった。

当時9歳という多感な年齢でアラスカという異国の地へ移り住んだ慎太郎氏。両親は、レストラン業で朝から晩まで多忙な日々を送り家にいる時間も少なく、アメリカ人同級生と通う学校も言葉の壁にぶつかり、異国の地での生活のスタートは容易ではなかった。だが、慎太郎氏は絵を描く事が大好きで、アートを通じて友達も多くできた。


9歳にして数々のコンクールで優勝。 中学生にして大学のアートクラスを受け、高校生の時には「National YoungArts Foundation」でアート部門の最優秀賞を受賞。受賞者に与えられるギフテッドプログラムで更に高度なアート教育を受けた。そんな慎太郎氏は人間を描いているうちに、医学の道も志すようになり、名門ブラウン大学へ入学。その後医学を学びながらもアートも両立させていた慎太郎氏は、超難関の「プレジデント・スカラシップ」を19歳で受賞。両親と共にホワイトハウスに訪れた後、医学かアートか迷った末に選んだのはやはり芸術の道であった。卒業後はアートの道を極めるため、大学院では修士号「Master of Fine Arts」も取得した。

父武夫氏はレストラン経営の傍ら、アメリカ移住前に学んだ氷彫刻を続け、知り合いに頼まれれば趣味としてつくっていたが、氷彫刻コンペをきっかけに世界中の氷彫刻師と出会い、氷の持つクリエイティブさと熱い仲間達に惚れ込み、更に彫刻家としての腕を磨いて行く。

やがて父武夫氏も妻とアラスカから慎太郎氏のいるニューヨークへ移住。チャレンジ精神旺盛な親子は、氷ビジネスに目をつけたのだ。ところが当時ニューヨークの氷ビジネスを良く知る知人には反対された事もあったという。なぜなら当時の氷ビジネスのクォリティーの低さ、そして薄利多売な世界に不安を感じていたからだ。しかし慎太郎氏はそこにこそチャンスを見出した。常に斬新なものを求めているニューヨークの市場で、高い技術とクリエイティビティ、日本人ならではの細やかな心遣いを組み合わせれば絶対に成功するという確信があったのだ。

2003年、アストリアでスタジオを借りて創業。0からのスタート。開業当時は顧客開拓に力を入れ、オカモトスタジオの名前と作品を見てもらえるように、チャリティーイベントに作品を寄付したりもした。展示会にも出店し、インパクトのある作品でアピールもした。まさに、NYは口コミが口コミを呼ぶ街だ。そのクオリティーの高さはすぐさま評判となり、どんな仕事も興味を持って一つ一つ丁寧に仕上げたことがNYという地で信頼を築くことに繋がった。事業は起動に乗りつつも、全世界が経済的打撃を受けたリーマンショックの煽りも受けた。だが、目の前のことを確実にこなすことが良い結果に繋がると信じ、オカモトスタジオは邁進していき、今では同社の顧客リストには大手企業がずらりと並んでいる。


オカモトスタジオにはオープニングセレモニーや新商品お披露目パーティー、結婚式、ケータリング会場と、色々なイベントの場で、食を豪華でインパクトのある演出で盛り上げたいというレストランやバーなど飲食関係の顧客が多い。氷は食と最も密接な関係を持つと語る慎太郎氏。氷は、食材を冷やす機能的な役割を果たしながら華麗に食を飾るというアート芸術品としての役割も果たす。氷の上にお刺身を盛り付けたり、高級食材のキャビアを飾ったりと、今まで多くの食材を輝かせてきた。

慎太郎氏は、オーダーが入るとまず最初に、イベントの主旨と目的を確認。その後デザインの具体的なイメージ、テーマ、大きさと詳細を決めていく。その後デザインを数点提示し、顧客の要望が決まったら制作に入る。彼の手掛ける作品は、数十名や、数千人が参加するものと内容も形態も様々だ。規模の大小に関わらず、彼の根底にあるのは、クライアントのニーズを満たし、最高のサービスとクオリティーを実現した商品を提供することにある。少数精鋭のオカモトスタジオだからこそ、これらの付加価値で、競合他社と勝負する。そして、もちろんデザイナーである慎太郎氏の芸術的才能はオカモトスタジオのみが提供できる顧客への最高のセールスポイントなのだ。

Photo by Okamoto Studio
Photo by Okamoto Studio

慎太郎氏が考える氷彫刻の魅力は、「今を大切にする」ということを気付かせてくれること。魂を込めて造った作品も、いずれは溶けてしまう。氷彫刻が飾られる場所は一日だけのイベントが多い。だからこそ、氷彫刻を見ている「今」とは、「明日にはもう溶けてなくなるものを前にして、今日ここに居て良かった。」、「大切な人と共に、一瞬ごとに移り変わる氷の芸術を見る時間を共有できて嬉しい」と束の間の尊さを噛みしめられる。その「今」を氷で造ることが慎太郎氏にとって最高の喜びであり感謝を感じる瞬間なのだ。

彫刻だけでなく、ルーツである画家としても作品を続くリ続けていきたいと語る慎太郎氏。常に新しいものを求めるニューヨークという土地で、トレンドを敏感に察知しながら新しいサービスや商品を展開していく予定のオカモトスタジオ。ニューヨークの食業界はオカモトスタジオによってもっと輝きを増すであろう。


Okamoto Studio
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Phone:212-842-0630
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